マリーナで見てきたこと
私はとあるマリーナで、15 年ほど船を見てきました。船の仕事にかかわっていたこともあります。決して大きくはない船の販売店が、海外から年に数隻の船を入れるだけで、納艇式のパーティーが開かれていました。輸入の船は、そのくらい特別なものでした。
その 15 年で、はっきり感じたことがあります。船を買う人が、極端に大きな船のほうへ寄っていったことです。真ん中の大きさの船が、目に見えて少なくなりました。マリーナでも、中くらいの船のための桟橋が取り壊されて、大きな船のための桟橋に作り替えられていきました。
ただ、これは私の目で見たことです。数で見ても同じことが言えるのかを、確かめることにしました。
隻数は 3 分の 1 に、金額は増えた
使ったのは、財務省の貿易統計に載っている、日本の輸入の数です。品目は「ヨット・遊覧用の船」です。
船外機を付けない動力の船(クルーザーはここに入ります)の輸入は、2019 年の 426 隻がいちばん多く、そこから 2023 年が 279 隻、2024 年が 205 隻、2025 年が 139 隻と減りました。2019 年の 3 分の 1 ほどです。
ところが、金額は 2019 年が 106.4 億円、2023 年が 103.5 億円、2024 年が 103.1 億円、2025 年が 133.7 億円でした。隻数が 3 分の 1 になったのに、使われたお金は増えています。

2015 年まで戻ると、隻数は 258 隻、金額は 65.3 億円でした。2015 年と 2025 年をくらべると、隻数は半分ほどに減り、金額は 2 倍を超えています。
減ったのは、真ん中と下
長さごとに分けて数えられるのは、品目の分け方が変わった 2022 年からです。大きさごとに分けると、どこが減ったのかが見えます。
- 7.5 m 以下の船:166 隻、99 隻、76 隻(2023〜2025 年)
- 7.5〜24 m の船(クルーザーの大きさ):113 隻、106 隻、60 隻
- 24 m を超える船:0 隻、0 隻、3 隻

真ん中の 7.5〜24 m の船は、2023 年から 2025 年で隻数が 46.9 % 減りました。金額のほうは 10.9 % しか減っていません。小さい船も同じように減っています。
一方で、24 m を超える船は、2022 年に 6 隻、2025 年に 3 隻入ってきました。2025 年の 3 隻は合わせて 46.73 億円、1 隻あたり 15 億円を超えます。
帆船(ヨット)も、7.5〜24 m の大きさは 2023 年から 50 隻、39 隻、18 隻と減りました。
1 隻あたりの値段が上がった
7.5〜24 m の船の 1 隻あたりの値段は、2023 年が約 7,796 万円、2024 年が約 8,673 万円、2025 年が約 1 億 3,086 万円でした。2023 年から 2025 年で 67.9 % 上がっています。
同じ 7.5〜24 m の中でも、長さは大きくちがいます。1 隻あたりが上がったのは、同じ欄の中でも大きいほうの船が多く入ってきたからだと考えると、マリーナで見てきたことと合います。ただし、統計には一隻ずつの長さは書かれていないので、ここは数からの読みです。円安の分も、この値段には入っています。
車でも、上は高くなっても買われる
船だけの話なのかを見るために、同じ統計で日本に入ってくる乗用車も、エンジンの大きさで数えてみました。
3 リットルを超える大きな車は、台数が年に 2.2 万〜3.1 万台のままで、1 台あたりは 2015 年の 817 万円から 2025 年の 1,643 万円に上がりました。上の段は、高くなっても買われ続けています。
真ん中の 1.5〜3 リットルの車は、2018 年の 187,070 台から 2024 年の 105,789 台まで減りました(2025 年は 122,641 台)。ただ、同じころ、ハイブリッドや電気の車が 2015 年の 2,786 台から 2025 年の 72,332 台に増えています。この欄はエンジンの大きさで分かれていないので、車の真ん中が本当に消えたのか、ハイブリッドに移っただけなのかは、この統計では分かりません。
数から言えること、言えないこと
言えること:
- 日本に入ってくる動力の船は、2019 年から 2025 年で隻数が 3 分の 1 ほどになったのに、金額は増えた。
- 減ったのは、真ん中と小さい船だった。24 m を超える船は、2022 年と 2025 年に入ってきた。
- 真ん中の大きさの船の 1 隻あたりの値段は、2 年で 67.9 % 上がった。
言えないこと:
- 統計には、新しい船か中古の船かの区別がありません。
- 円の金額なので、円安の分も含まれています。
- 24 m を超える船は、数隻で 1 年の金額を大きく動かします。
- 日本の国内で作られて売られる船は、この統計に入っていません。
船の商売をする人にとって
マリーナで見てきたことと、統計の数は、同じ向きを指していました。船を買う人は減っていても、買える人は大きな船を、前より高い値段で買っています。
真ん中の大きさの船を、真ん中の値段で売る商売は、お客さまの数そのものが減っている、ということになります。上の段に移るのか、下の段の小さな船や、借りて乗る形に移るのか。どちらを選ぶかは商売をする人の判断ですが、少なくとも「前と同じ真ん中」にお客さまが戻ってくると考える根拠は、この数からは見つかりませんでした。
出典:財務省「貿易統計」(政府統計の総合窓口 e-Stat・品別国別表・品目 8903 と 8703)を加工して作成。数はプログラムで集計し、合計と内訳が一致することを確かめました。